影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「ありがとう、って言ってくれるなんて、君くらいだ。」

後ろから、誠一郎さんの声がした。

――また、後をつけてきたんだ。

「もう。誠一郎さん、あと付けすぎです。」

「ごめん。」

そう言いながら、彼は私の背後に立ち、そっと両腕で私を包み込んだ。

奈保さんのお墓の前で、私たちはひとつになるように寄り添った。

「彼女を……愛してた。」

その一言は、未練ではなかった。

懺悔でも、言い訳でもなかった。

ただ静かに、彼の人生の一部としてそこにあった。

私は頷いた。

「……うん。知ってた。」

「でも今は、君がいる。」

彼の唇が、そっと私の髪に触れる。

あたたかい。

過去も、現在も、すべてを包んでくれるような愛。

「君を愛してる。俺のすべてを、梨子にあげたい。」

――梨子。

本当は、私の名前は梨沙なのに。

それでも、今だけはその名前でもいいと思った。

彼の想いが、私の心を満たしていく。

風がそっと吹いた。奈保さんの眠る場所に、やさしく、そっと。
< 54 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop