影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
私はそっと彼の額に手をやり、汗の滲んだ髪を撫で上げた。

「正直……年上過ぎて、拒まれると思ってた。」

「……ううん。私、幸せよ。」

言葉にするたび、涙がにじみそうになる。

「誠一郎さんの子種を、こんなにも貰ってるんだもの。」

その瞬間、彼が微笑みながら顔を寄せた。

「全部、あげるよ。たくさん。何度だって……君で、満足する。」

その言葉に、また心が震える。

抱かれるたびに、私は彼に染まっていく。

そしてまた、新しい夜が静かに、深く始まるのだった。

そしてふと、庭の一角に、小さなお墓があることに気づいた。

苔むした石に、「奈保」と彫られている。

それは、あまりにも静かで、目立たない場所だった。

私はそっとしゃがみこみ、手を合わせた。

――ありがとう。

この人がいたから、今の誠一郎さんがいる。

そう思うと、自然と口からその言葉が漏れた。

そのときだった。
< 53 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop