影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
涙が、ぽろりと零れた。

「大丈夫だ。医者から薬をもらった。これを飲めば治るから。」

誠一郎さんが、薬をそっと差し出してくれる。

でも、違うんです――そうじゃない。

風邪が治っても、この痛みは消えない。

私は、梨子じゃない。

“私”として、梨沙として、あなたに愛されたい。

なのに、誠一郎さんは“梨子”に薬を差し出してくれる。

「……ああ、苦しそうな顔をして。代わってやれるなら代わってやりたい。」

その優しい言葉が、かえって苦しい。

私は、あなたを騙している――

この優しさを、真っ直ぐには受け取れない。

唇に、そっとキスが落ちた。

「そうだ。風邪は誰かに移すと治るって聞いたことがある。だから……俺に移せ。」

誠一郎さんは、冗談のように笑って言ったけれど――

私は、愕然とした。

「な……何を言ってるんですか!」

布団の中から、私は慌てて体を起こした。
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