影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「誠一郎さんに移せるはずがないじゃないですか!」

「でも君が治るなら、俺は……」

「駄目です!」

声を荒げた自分に驚いた。

でも止められなかった。

「あなたにだけは、移したくないんです。……だって、あなたは……大事な人だから……」

喉が痛んだ。でも、それ以上に心が痛かった。

――私は梨子じゃない。

けれど、この人に触れていたい。

優しさを感じたい。

欲張りでも、偽物でも、それでも。

誠一郎さんは、少し目を見開いてから、穏やかに微笑んだ。

「そっか……ありがとう。でも、君が俺を大事に想ってくれてるって分かって、嬉しいよ。」

その言葉に、涙が滲んだ。

本当の自分を打ち明けられたら――

この人は、どんな顔をするだろう。

今はまだ、怖くて言えない。

けれど、いつかきっと……。
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