影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
二人は、にやにやと顔を見合わせていた。

そこに“私”という人間の意思など、ひとかけらも存在していなかった。

私は、膝の上でぎゅっと拳を握る。

喉が乾いて声が出しづらかったが、思い切って口を開く。

「待ってください……お相手の方は、それで納得されるのでしょうか?」

「納得するもなにも、会ってないのだから。あちらが“あなたが梨子です”と信じれば、それで済む話でしょ?」

姉は、何のためらいもなく言い放った。

それはまるで、“服のサイズが合えば誰が着ても同じ”とでも言うかのような、雑な扱いだった。

「……私には、できません。」

ようやく絞り出した言葉に、姉はくすりと笑った。

「それはそうね。あなたも女だもの。三十五歳のおじさんに抱かれるなんて、想像しただけで気味が悪いわよね」

――おじさん。

その言葉に、背筋がひやりとした。

梨沙は息を呑んだ。

“結婚”とは、ただ名字が変わるだけではない。
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