影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「お母さん!」

部屋に入った瞬間、私はその姿に息を呑んだ。

母はベッドに伏せ、痩せ細った体を毛布に包んでいた。

「どうしてこんなことに……」

涙をこらえて母の枕元に駆け寄る。

母は私に気づき、かすかに微笑んだ。

「梨沙……来てくれたのね」

「うん。私、何もできなかった……守れなかった……」

「何も言わないで」

母は弱々しく首を振った。

「医者にかかるのは……お金が必要なのよ。」

「そんなの、お父さんに頼めば……」

私がそう言うと、お母さんは、静かに、でもはっきりと首を横に振った。

「もういいの。……愛は終わったのよ。」

その言葉が、心に刺さった。

お母さんは、お父さんの正妻にはなれなかった。

妾として生きて、愛を支えにしていたはずなのに――その愛が終わってしまったら、何を拠り所にすればいいの?

「そんなの……ひどいよ……っ」

思わず膝をつき、顔を手で覆った。

胸が痛くて、苦しくて、涙が止まらなかった。
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