悪 狐
先生は私に背を向け、教室を出て行く。
汚すのが楽しい?
それは、保月先生なら納得がいく。
恨みを晴らし、八つ当たりとして利用するなら……
けれど。私に触れて、楽しいような表情など見たことが無い。
私の貧相な体が不満なのかな。
私は良いように解釈していた。
八つ当たりを、私にしても意味がないと分かっているのだと。
優しい大人の男性に弱いのかな。
大内先生が怖いと感じたのに、体調を気遣って額に触れた手が優しかったから。
私は前髪をかき上げ、ため息を吐いた。
もっと経験を積んで、年齢に伴った成長をすれば、いずれは理解できるようになるのかな。
未熟さ。心身共に。何も知らない。無知。
大人の感覚は未知の世界。足掻いても無理。
移動教室までの道程。
渡り廊下を歩いていた私は、校舎の端にある保健室に目を向けた。
外にいる女性に、保健室の中から呼びかける保月先生の姿。
足を止め、遠目にも分かる笑顔に心が凍りついた。
目を逸らしたけれど、激しくなる心音が不安を表すようで怖い。
「岩端さん、大丈夫?保健室に行ったほうが良いよ。顔が真っ青。」