小夜啼鳥

どこか優越感を抱きつつ、嬉しいくせに……冷たく接してしまう。
そうしなければならないと、自分を律するように。

認めたくない。
認めてしまうと、私が崩れてしまいそうになる。


「ちょっと、そんな辛気臭い顔で家に来ないでよね。少し寄り道をしましょうか。さ、行くわよ!」

下駄箱で待ち合わせた菊水さんは、到着した私の顔を見て、心配そうな表情で口早に告げた。
私の手を引いて、どんどん歩いて行く。

少し早いけれど、付いて行けないような速度じゃない。
後ろから見える彼女の顔は、やはり真っ直ぐで、進む道に向けられている。

私は誰かの視線ばかりを気にしていた。
目を落とし、目前の道さえ周りも見ずに、狭い範囲だけを見つめて。

彼女の足が止まり、私も立ち止まる。

「見て、今日は良い天気だね!」

彼女の笑顔に誘われて目を上げ、久々に青空を見たような気がした。
顔を上げたまま目を閉じ、自分を通り越していく風を感じる。
自分がここに存在することを意識して、目を開く。
心は一層軽くなり、自分が笑顔になっていることに気付く。

「菊水さん。私、あなたのことを下の名前で呼びたい。私の事も、七帆(ななほ)と呼んでくれるかな?」

目を向けると、彼女は微笑んで答える。

「七帆、私の事は一栄(かずえ)でいいよ。」

藤九郎とは違う優しい声が、私の心に響いた…………




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