小夜啼鳥

ヨナキウグイス


「ごめんなさい、越水くん。あなたの気持ちには応えられない。私は藤九郎が好きなの。」

教室に藤九郎と戻り、私たちの雰囲気に周りは敏感だった。
それは大騒ぎになったから、きっと越水くんも察しただろう。
それでも、私は返事をしなければならない。

正直に。卑怯な自分が、利用しようとしたことも。
好きになってくれた純粋な想いを踏みにじる様な女だと。でなければ。

「風間との出逢いは俺より先だったかもしれない。けれど、あいつが来る前に想いを告げていれば君は。」

もしもの話は未来を見えなくする。
誰かが自分を想っている事さえ気づかず、もう取り戻せない過去に縛られる事など。

「越水くん。あなたは私の全てを知らない。私は卑怯で、自分の為にあなたを利用することも考えた。藤九郎が現れなくても、あなたの想いは受け入れなかったと思う。」

残酷な返事。
言葉を失った彼の心の内は分からない。

「ごめんなさい。」

好意を抱いてくれて嬉しいのは確か。
真っ直ぐに謝る私から、彼は視線を逸らした。

越水くんの横を通り過ぎ、背を向けたまま告げる。

「ありがとう。」

もしも成長した藤九郎が、私の前に現れなかったら?
そうね、確かに最初は断ると思うけれど。
越水くんの告白に心は揺れて、いつしか恋になったかもしれない。
だけどそんな未来は存在しないから、言わないわ。


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