小夜啼鳥
私の身勝手な言葉に、藤九郎は穏やかな笑みを見せる。
胸に、痛みとは違う重みのある息苦しさが生じた。
「今日から、君が先に出て。父さん達を誤魔化すのに、時間がかかるだろ?」
自分に、重く圧し掛かるような何か。
彼の言葉が私を追い詰めていく。
分かっている。
首を絞めているのは自分だ。
彼に背を向けて、台所は寄らずに外へ出た。
お弁当や軽い朝食が、後から届くだろう。
依存している。揺るがない程の信頼。
藤九郎が居ない生活なんて、忘れてしまうほどに。
家が見えなくなった位置で足を止め、歩いて来た道を振り返る。
昨日の約束。
“私の我儘を聴いてくれるのなら、藤九郎のお願いも一つだけ叶える”
だけど、それは私に出来る範囲内での事。
彼が何を望むのかを想定して、そう言ったのか。
ただ私が、この家から逃げたくて必死だったのかも知れないけれど。
追い込まれた私に出来ることなど、限られている。
ため息を吐き、私は学校に向かう道に体を戻した。
「おはよう。」
突然の挨拶に面食らう。
越水 三郷 (こしみず みさと)。
クラスが同じで、よく会話するから仲が良い方だと思う。
でも、それは。
藤九郎が来るまでの事。
「おはよう。越水くんって、道が違うよね?」
今まで通学途中で会ったとしても、校門前くらいだ。
それに久々に話した気がする。
「うん。実は、遠回りしてさ……」