奪う
 その答えが聞けたら十分だった。カナデは覚えている。その上で、今このタイミングで殺されるわけがないと確信している。それは彼を信頼している証左でもあるように思えた。

 彼はカナデから手を離す。カナデの首には彼の指紋がべったりと付着しているだろう。予定にない殺しはしない。衝動的な殺しはしない。そのことを、手袋の有無で見破られている。思っている以上に、彼はカナデに信用されていた。

 閉めたばかりのキャップをまた開ける。カフェオレは好んで飲んでいるが、喉の渇きを潤す飲み物としては向いていない。それでも飲んでしまうのは、単純に美味しいからである。理由など、それだけだ。カナデと手を組むことを決めたのも、人を殺したい彼にとって利益があり、美味しい話だからだ。途中でその味が変わってしまわないように、カナデに繋いだ手綱は決して離さない。

「血が嫌いな人は首を絞めて殺しました。苦しまずに死にたいという人は急所を狙って殺しました。希望がない人は殴り殺したり絞め殺したりするくらいで、特に凝った殺し方はしていません」

 カフェオレを飲み、気を取り直して話を戻す。普通であれば通報されるような会話が続いていても、大きな枠組みとしては同類のカナデが相手であればその心配もない。

「良い意味で誰にでもできる殺し方なわけですね」

「そうなりますね」

 下半身のものを切り取って食わせる所業もしたが、わざわざ後付けする必要もないだろう。その方法も、誰にでもできないわけではない。死体をバラバラに切断して処分するような人間もいるのだから、それと比べると彼の犯行など可愛いものである。

 切断、と考えて、彼はふと思う。死体を切断したら気持ちいいかもしれない。生きたまま切断するのも気持ちいいかもしれない。機会があれば、他の犯罪者のようにバラバラに切断してみるのもいいかもしれない。そうしてみたい。やってみたい。どうせ殺すのなら、まだ未経験の方法で殺ってみたい。殺りたい。
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