奪う
「血が嫌いだから血は出さずに殺してほしいとか、苦しまずに死にたいからそうしてほしいとかですね。好きに殺していいというのも確かありました」

「それをどのようにして叶えてあげたのか聞いてもいいですか?」

「構いませんが、今日は凄く好奇心旺盛ですね」

「惚れた相手と長時間車内で二人きりですからね。ミコトさんについてたくさんの情報を得る絶好のチャンスです」

 コーヒーで口内を濡らすカナデの横顔を見つめる。裏があるのかないのか分からなかったが、それを疑ってしまう時点で彼はまだカナデを内奥では信じ切れていないのかもしれない。深く知ろうとしてくるカナデも同じだろうか。

 互いの背中を預けられるくらいの信頼関係がなければ、きっとどこかで綻びが生じる。彼もカナデのことを知る必要がある。

「後で俺にもカナデさんのことを教えてください」

「俺に興味持ってくれてるんですか? 物凄く嬉しいです。ミコトさんには何もかも正直に打ち明けますよ。約束します」

 カナデが彼の方を向く。彼は目を合わせた。瞳孔が開いていた。

 裏切ったら殺すと事前に伝えている。嘘を吐いても同様である。それをカナデが忘れていなければ、自分を騙すような真似はしないはずだ。殺されたくなければ。

 彼は甘いカフェオレを飲み、キャップを閉めて片手を空けた。その手をカナデに向けて伸ばし、無防備な首を掴む。カナデは驚くこともなく彼を凝視する。冷静だった。抵抗一つしない。

 急所である首を掴まれても全く動じない人間は初めてだ。自殺志願者であっても、多少のリアクションはする。緊張や期待、中には恐怖もあったかもしれない。

「ノーリアクションですか」

「殺さないと分かってますから」

「俺は一応何人も殺してますよ」

「俺を殺す予定で来てくれた時に身につけていた手袋を今はしていませんし、俺はミコトさんを裏切ってもいませんから」
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