奪う
 暫し目を合わせた。訳の分からない不穏な会話であった。ジョークであることは間違いないだろうが、カナデであれば本気で飛び降りそうである。死ぬのなら殺させてほしいと内心で思っていても、彼も焦って止めるようなことはしないだろう。

 彼はカフェオレで唇を湿らせた。訳の分からない不穏な会話に付き合うことにした。

「逆に、好きと言えばどうなりますか」

「俺も好きと言います。付き合いませんか?」

「興味ないですし、それなら嫌いを選びます」

「酷い振り方しますね。死んでいいですか?」

「死ぬのに許可は必要ないですよ」

 仄暗い冗談であり、面白くもない漫才であった。誰にもウケない。笑い上戸の人にも通用しない。陳腐な言葉の投げ合いだ。

 カフェオレを啜った。カナデの様子を窺う。まだ本題に入るような気配はない。こちらから切り出した方がいいだろうか。

 カナデが騙している金蔓について、顔を合わせて話をするために来ていた。言うなれば、簡単な作戦会議である。メッセージのやりとりでも可能ではあったが、互いの顔を見て話をした方が意思疎通はしやすいと踏み、予定を照らし合わせて会うことになったのだ。一人で行動しているわけではない。この件に関しては二人で協力している。些細なことでも齟齬が生じるとスムーズに実行できなくなる恐れがあった。それを予め防ぐための手段である。

 カップをテーブルの上に置いた。ふと視線を感じて目を上げると、カナデに食い入るように見つめられていた。その口角は、やはり怪しげに持ち上がっていた。

 そろそろ話し始めそうな予感がし、彼は目を逸らすことなく見つめ返した。視線を絡ませ続けても、彼もカナデも照れることはない。引き結ばれていたカナデの唇が開く。
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