奪う
 彼は黙々と仕事をしているふりをしながら、酒くらい自分で選べよ、と脳内で不満を漏らした。彼の中では、客など神ではなかった。外面では客をお客様として大事にしているが、内面では一人一人大事にぶっ殺している。あまり見ない顔ぶれでもある新入りの若者四人もそうしようと、彼は順番にぶちのめした。心霊スポットで殺した四人と性別と人数がちょうど重なったため、刃物ではなく金属バットで撲殺した。一人は扼殺だったが、構わず四人を全力のフルスイングでぶん殴った。全員の頭蓋骨を破壊し、かち割った。かち割ると、血液や脳漿が飛び散った。飛び散ると、男たちは動かなくなった。動かなくなると、否、動かなくなっても、彼は頭を平らになるくらいまで殴り続けた。徹底的に殺すことは、想像上でも変わらなかった。

「すみません」

「はい」

「あの、おすすめの酎ハイってありますか?」

 接客業を続けていると、すみませんと声をかけられることが多い。そのため、別のことを考えていても勝手に口が動くようになっていた。店員としてのリアクションが染み付いているのだ。すみません。はい。すみません。はい。すみません。はい。

 期待した通りにはいかなかった。誰も店員に聞くことを止めなかった。話しかけてほしくなかったが、話しかけてほしくなかったことを悟られないようにしなければならなかった。店員とは、そういうものである。仕事とは、そういうものである。彼は今、探せばどこにでもいるような凡人である。

 若者におすすめを尋ねられた彼は、酒の棚を見て目が合ったものを適当に勧めることにした。飲んだことがあってもなくても全てあったことにして勧める。商売には多少の嘘は付き物である。
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