奪う
 声をかけてきた一人と共に若者が集まっている場所まで移動した彼は、注目を浴びながら棚に目を向けた。自然とピントが合ったのは、ぶどうの酎ハイだった。カナデと晩酌をした時に、カナデが飲んでいた酎ハイと同じものである。舌がぶどうの味を思い出す。自らが選んだキウイと一口交換する形で、彼もぶどうを飲んでいた。

「ぶどうがおすすめです。メジャーな味ですし、こちらなら失敗はないと思います」

 ぶどうの酎ハイを手で示し、それっぽく案内してみせる。彼の言葉を聞きながら揃って相槌を打つ若者たちは、声量は大きいが、思いの外素直な性格をしているようだった。

「決めた。俺の初めての酒はぶどう味にするわ」

「なら俺もぶどうにする」

「ぶどう美味いし俺もぶどうだな」

「みんなぶどうなら空気読んで俺も」

「いやなんでだよ。みんな一緒はつまんねぇじゃん」

 勧めた酎ハイがそれぞれの手に渡る。合計四本。

 適当におすすめを言ったっきり口を閉ざす彼は、同じものを手に取った四人の様子を眺めた。全員が同じ酎ハイを選んだことに突っ込みを入れた今回の主役であろう男の顔は、随分と楽しそうに見えた。他の三人も破顔していた。愛想のない店員の彼だけが、異様に浮いている空間だった。自分はもう必要ないと踏み、彼は消えるようにその場から離れた。

「あ、店員さん、ありがとうございました」

 何も言わずに立ち去る彼に気づいた一人が率先して口を開くと、ありがとうございました、と他の人間も後に続いた。彼は会釈で返し、仕事を再開した。片手にぶどうの酎ハイという名の新たな装備を携えた四人を殺すのも再開した。想像の中の男たちは、何度殺しても生き返る不死身の人間であった。金属バットで全身の骨を砕いた。
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