奪う
 日付が変わる数分前に、数人のグループ客が来店した。途端に店内が人の声で騒々しくなった。揃いも揃って声量の大きい客であることに溜息を吐いてしまいそうになる。レジにいる後輩も負けず劣らず大きな声で接客用語を発している。

 店員のいらっしゃいませの声にさりげなく会釈をしたり時間帯に合わせた挨拶を返したりして、何かしらのリアクションを取ってくれる客など少数だった。やってきた囂しい客たちが、その少数に含まれることはなかった。

「酒のコーナー発見。初めての酒は何飲むよ」

「ビールだろビール。ビール飲んじまえよ」

「ビール? お前ビール飲めんのかよ」

「試したことはあるけど全然飲めなかったわ」

「自分が飲めないものを人に勧めんなって」

 同年代と思しき若い男が四人。整然と並んでいる酒を仲良さげに物色し始めた。嫌でも耳に入ってくる会話から察するに、初めて酒を飲む人がいるらしい。四人の中で一番最後に二十歳を迎えたのだろう。若者たちは、ようやっと心置きなく四人で飲めることが嬉しくてたまらないといった様子だった。

「いろいろありすぎて迷うな」

「最初は酎ハイが無難じゃね?」

「酎ハイはほぼジュースだしな」

「アルコール度数は高くない方がいいっしょ」

「迷うなら店員さんにおすすめ聞いてみる?」

 風向きが変わるのを感じ、彼はさりげなく距離を取った。

 こっちには何も聞いてくるな。聞くならレジにいる男にしろ。

 店員らしからぬ感情を抱く彼は、バックヤードに逃げ込もうとすら思ったが、タイミング的にそれはあまりにも不自然だった。潔く諦めるしかない。誰かが店員に聞こうとするのを止めてくれるのを期待するしかない。
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