奪う
 返事は求めてなさそうなくらいの勢いだった。それでもスパッと切り捨てようと口を開きかけたタイミングで、新しい客が入ってきてしまった。彼は仕方なく言葉を入れ替える。いらっしゃいませ。

 来店したのは片手に煙草の箱を持っている女性客だった。女を求めていた刺青男は間が悪いようだが、ニコチンが切れた煙草女は運が良いようだ。

 常連の客を認知し、瞬時に店員の顔に切り替えた後輩が、言われる前に動き始めた。女性客は相変わらず腰が低く、恐縮そうにしている。二人はすっかり顔見知りとなっていた。

「いつもありがとうございます」

「こちらこそいつもすみません」

 朗らかな雰囲気で会話を交わす後輩と女性客を眺めながら、彼は脳内で二人の人間を刺し殺した。滅多刺しにしてぶっ殺した。全身に次から次へと穴を空けた。何も知らずに笑顔を見せている後輩と女性客は、彼のイメージの中で夥しい量の血に染まり、静かに呼吸を止めていた。
< 159 / 175 >

この作品をシェア

pagetop