奪う
「ミコトさん、ちょっと妙案を思いつきました」

 閃いたとばかりに声を上げたカナデは、まだ酔っている彼を気遣うこともなくマイペースに事を進めようとする。視界がぐるぐると回っているような気持ち悪さを堪えながら、彼は黙って耳を傾けるだけ傾けた。下手に喋ると吐いてしまいそうだった。車に酔って吐いたことはないが、一瞬でも気を抜けば吐いてしまうんじゃないかと思うくらい気持ち悪かった。

「ミコトさんは今リアルに酔ってますので、それをそのまま、イツキが車に酔って体調が優れないことにしたら良いと思いませんか? ユウコはとても心の優しい人なので、見るからに顔色の悪い人を放っておくような真似はしないはずです。どうですか?」

 どうかと問われても頭が回らず、それが妙案なのか否か考えられない。答えられない。今はとにかく横になりたい。ミコトだろうがイツキだろうがこの瞬間だけはどちらでも構わなかった。演技をする余力はない。

 車酔いをした人間はその時だけ、まるで死んだようになってしまう。彼の蒼白な顔面がその証左であった。

 症状が治らなければ殺せるものも殺せない。殺すのなら集中して殺したい。思う存分楽しみながら殺したい。予定とは異なる形であっても何が何でも敷居を跨ぎ、何が何でも体調を回復させ、何が何でも金蔓を殺したい。

 経験上、いつまでも車に乗っていても仕方がないことを彼は知っている。車内の空気にも酔っている恐れがあるため、ひとまず降りた方がいいかもしれないと彼はようやくのろのろとシートベルトを外した。

 彼も彼でカナデを気遣うこともなく車から降り、自然の空気、それも夜の空気を吸い込んだ。ほんの僅か楽になったような気がしたが、所詮は気がしただけである。すぐに立っているのが辛くなってしまった。脳味噌が大きく揺れているような感覚だ。気持ち悪くてたまらない。
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