奪う
 彼に話しかけるユウコの口振りは非常にぎこちなかった。すっかり信頼して心を開いているカナデとは普通に話せているものの、初対面の相手ではそうもいかないようだ。

 本来は内気な性格だという情報は既にカナデからそれとなく伝えられていたが、騙すことではなく殺すことが目的である彼からすると、与し易そうな性格かどうかは特に重要視するべき事柄ではなかった。どうせ殺すユウコと無理に打ち解ける必要はない。そのつもりもない。

「本当にありがとう、ユウコ。迷惑かけてごめんね。イツキ、とりあえず上がらせてもらおう」

 口を開かない彼に変わって答えたカナデに引っ張られた。彼は男二人を家に上げるユウコを一瞥し、抜け切らない不快感を覚えながらも、イツキとして会釈だけはしておいた。すみません。申し訳ないです。余計な気を遣わせてしまって。イツキらしくないかもしれないが、体調不良の人間は大抵らしくないことをするだろうと自ら納得させた。

 皮肉にも酔ったおかげで、それを利用したおかげで、彼は無事、ユウコの家に足を踏み入れることができた。一言も喋ることなく敷居を跨ぐことができた。後は本調子に戻るまで休んで、それから、徹底的にぶっ殺すだけだ。早く殺したいと気持ちが急いている部分はあるが、焦ってはならない。心はその気になっていても、酔って気持ち悪くなっている状態では体がついていかない。車酔いしたイツキとしてしばらく安静にすることが最優先事項だった。

 家に上がると、ユウコにリビングまで案内された。というよりも、未だ手首を掴んでいるカナデに連れられたと言った方が正しいかもしれない。カナデは何度もユウコの家を訪れているはずである。リビングの場所のみならず、この家の間取りは頭に入っているだろう。

 ユウコは実家暮らしである。しかし両親は既に他界しているため、実質一人暮らしだと、車に酔う前に追加情報として教えてもらっていた。確かに、大人の男二人が足を踏み入れても、それほど狭苦しさは感じないくらいの広さだった。家族で住んでいたと分かる家だった。
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