奪う
「ユウコには感謝してもしきれないよ」

「それはもういいって。何回も聞いたよ?」

「何回でも言わせてよ。多額の借金を肩代わりして俺を窮地から救ってくれたんだから。ユウコがいなかったら、今頃俺は死んでたかも」

「大袈裟だなぁ」

「全然大袈裟なんかじゃないよ。本当にありがとう。ユウコに出会えて良かった。心から愛してる」

 目が覚めると、カナデが何やら心にもないことをぺらぺらとくっちゃべっているところであった。

 窮地に立っていたわけでも死にそうになっていたわけでも愛しているわけでもないカナデの言葉は嘘八百である。感謝はしていたとしても、それは大枚を叩いてくれてありがとうの意味だ。出会えて良かったというのも、扱いやすい金蔓を引っ掛けられて良かったの意味だ。

 カナデはユウコに好意など抱いていない。ただの金蔓としか見ていない。しかしそれを全く悟らせることなく信じ込ませ、純粋で健気な青年に成り切る演技力には舌を巻かざるを得ない。詐欺師にとって人を騙すことなど朝飯前なのだろうか。彼が人を殺すことなど朝飯前であるように。

 彼は身を捩り、のそりと起き上がった。寝起き特有の気怠さに息を吐きながら顔を上げると、カナデに髪を梳かれ頬を撫でられ、恍惚とした表情を浮かべているユウコと目が合った。ユウコは眠りから覚めた彼を認識するや否や、正気を取り戻したようにカナデを押し退けた。甘ったるい雰囲気を誤魔化すように態とらしく声を上げる。

「あ、目、目、覚めたんですね。き、気分は、あの、どうですか……?」

「おかげさまで楽になりました」

「それは、良かったです……」

「ちょっとユウコ、いきなりびっくりしたよ」

「ごめん、アオイ。私少しトイレに行ってくるね」
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