奪う
手袋を嵌めた時点で殺しのスイッチがオンになっている彼はリビングを移動した。トイレから微かに水の流れる音が聞こえる。包丁を握り直す。鍵が開錠されドアが開くのを見計らって歩みを進めた。
用を足したユウコが無防備なままトイレから出てくる。ばちりと目が合った。瞬間、ユウコはまたしても動揺し、え、え、と困惑しきった声を漏らした。瞳を忙しなく動かすユウコの視線が何かを察知したように下がると、みるみるうちに、驚愕と恐怖が綯い交ぜになったような只事ではない顔色に変化した。
「え、え……、なんで……、え……、なに、なにもって……」
彼は口を開くことなく無表情でユウコに迫った。いきなりのことであっても、本能的に身の危険を感じているのだろうユウコが唇を戦慄かせる。その場を後退したが、すぐにトイレの扉に背中をぶつけた。その中に籠もる、という選択肢に気づかれる前に、彼はユウコとの距離を詰めた。
「あ、アオイ……、アオイ……、ねぇ、アオイ、来て、来て……、助けて、アオイ……」
恐怖で足が竦んでしまったのか、動けずにいるユウコがアオイの名前を呼んでいる。悲痛な声で助けを求めている。アオイ。助けて。アオイ。アオイ。助けて。アオイ。眼鏡の奥の両目を濡らし、身体をガタガタと震わせてアオイを呼び続けるが、無意味だった。アオイはアオイではない。アオイは助けには来ない。ここにユウコの味方はいない。
ユウコはいつになったら騙されていたことに気づくのだろう。助けて。アオイ。殺されても気づかないだろうか。助けて。アオイ。それほどまでにアオイという男に心酔しているのだろうか。助けて。アオイ。アオイが化けの皮を剥いでカナデになるまで、ユウコは一生気づかないのかもしれない。助けて。アオイ。死んでも気づかないのかもしれない。助けて。アオイ。全く現実が見えていない女なのかもしれない。助けて。アオイ。助けて。アオイ。助けて。アオイ。アオイ。アオイ。うるさい黙れよ金蔓地味女。
用を足したユウコが無防備なままトイレから出てくる。ばちりと目が合った。瞬間、ユウコはまたしても動揺し、え、え、と困惑しきった声を漏らした。瞳を忙しなく動かすユウコの視線が何かを察知したように下がると、みるみるうちに、驚愕と恐怖が綯い交ぜになったような只事ではない顔色に変化した。
「え、え……、なんで……、え……、なに、なにもって……」
彼は口を開くことなく無表情でユウコに迫った。いきなりのことであっても、本能的に身の危険を感じているのだろうユウコが唇を戦慄かせる。その場を後退したが、すぐにトイレの扉に背中をぶつけた。その中に籠もる、という選択肢に気づかれる前に、彼はユウコとの距離を詰めた。
「あ、アオイ……、アオイ……、ねぇ、アオイ、来て、来て……、助けて、アオイ……」
恐怖で足が竦んでしまったのか、動けずにいるユウコがアオイの名前を呼んでいる。悲痛な声で助けを求めている。アオイ。助けて。アオイ。アオイ。助けて。アオイ。眼鏡の奥の両目を濡らし、身体をガタガタと震わせてアオイを呼び続けるが、無意味だった。アオイはアオイではない。アオイは助けには来ない。ここにユウコの味方はいない。
ユウコはいつになったら騙されていたことに気づくのだろう。助けて。アオイ。殺されても気づかないだろうか。助けて。アオイ。それほどまでにアオイという男に心酔しているのだろうか。助けて。アオイ。アオイが化けの皮を剥いでカナデになるまで、ユウコは一生気づかないのかもしれない。助けて。アオイ。死んでも気づかないのかもしれない。助けて。アオイ。全く現実が見えていない女なのかもしれない。助けて。アオイ。助けて。アオイ。助けて。アオイ。アオイ。アオイ。うるさい黙れよ金蔓地味女。