奪う
ユウコの混乱した叫声がだんだん耳障りになってきた彼は、怯えきっているユウコの首を乱暴に掴んで喧しい音を消した。ユウコの顔が歪む。ユウコの両手が彼の腕を掴む。ユウコの腹が無防備になる。無防備になった。彼は気づいた。これは僥倖である。彼は楽々とユウコの息の根を止めながら隙だらけの腹を刺そうとしたが、ふと思い止まり中断した。刺す際は、服を間に挟まない方がより効果があるのではないか。咄嗟に名案のようなものが浮かんだ彼は、ユウコの服を持ち上げ、その中に躊躇なく包丁を突っ込んだ。そして、彼は淡々と、息をするように容易に、剥き出しになった腹に包丁の切っ先を押し込んだ。瞬間、ユウコの目が見開かれ、半開きになっていた口から声にならない声が漏れた。
腹を刺され専らパニックに陥り、ぐらぐらと頼りなく目を泳がせ苦しげに喘ぎ始めたユウコを見下ろす。恋人の親友であるはずの男に首を絞められ腹を刺され、とても心の優しいユウコは何を思っているのだろう。彼には分からない。分かろうともしていない。額に脂汗のようなものが浮いていることに気づいて大変に思い、黒縁の眼鏡が少しズレていることに気づいて滑稽に思い、口の端から涎が垂れていることに気づいて不快に思う。それだけである。痛みも苦しみも、彼には理解できない。共感できない。ただ、人を殺したくてたまらない。
彼は密かに興奮していた。包丁が皮膚を突き破った確かな感触を手のひらに感じ、密かに興奮していた。表面上は至って冷静でありながら、密かに興奮していた。もう一度味わいたい。鮮明に味わいたい。想像では決して得られなかった手応えに、途方もないほどの快感を覚えた。気持ちよかった。やはり殺人は、気持ちのいいものだった。やめられるはずがなかった。やめるつもりもなかった。
彼は虫の息となっているユウコの腹から包丁を引き抜いた。傷口から血が大量に噴出する。着ている服に飛び散ったが、例に及ばず全身は黒で統一している。血液はそれほど目立たなかった。
腹を刺され専らパニックに陥り、ぐらぐらと頼りなく目を泳がせ苦しげに喘ぎ始めたユウコを見下ろす。恋人の親友であるはずの男に首を絞められ腹を刺され、とても心の優しいユウコは何を思っているのだろう。彼には分からない。分かろうともしていない。額に脂汗のようなものが浮いていることに気づいて大変に思い、黒縁の眼鏡が少しズレていることに気づいて滑稽に思い、口の端から涎が垂れていることに気づいて不快に思う。それだけである。痛みも苦しみも、彼には理解できない。共感できない。ただ、人を殺したくてたまらない。
彼は密かに興奮していた。包丁が皮膚を突き破った確かな感触を手のひらに感じ、密かに興奮していた。表面上は至って冷静でありながら、密かに興奮していた。もう一度味わいたい。鮮明に味わいたい。想像では決して得られなかった手応えに、途方もないほどの快感を覚えた。気持ちよかった。やはり殺人は、気持ちのいいものだった。やめられるはずがなかった。やめるつもりもなかった。
彼は虫の息となっているユウコの腹から包丁を引き抜いた。傷口から血が大量に噴出する。着ている服に飛び散ったが、例に及ばず全身は黒で統一している。血液はそれほど目立たなかった。