【完】 瞬く星に願いをかけて
最終話 「星に願いを」
すぐにお巡りさんが駆けつけてくれて、たくさんのパトカーや自転車で、辺りはサスペンスドラマみたいになっていた。
まぁ、おじさんはすぐに救急車で運ばれていたけど……
店長も来てくれて、もの凄く心配してくれた。
私の姿を見て、無事だと分かるないなや、大号泣していたけど。
お巡りさんからの話が終わる頃には、外はすっかり真っ暗になっていた。
腰を抜かしたせいでろくに歩けない私は、先輩におんぶしてもらって家まで送ってもらっていた。
「大丈夫です!」と、言ったのだが、先輩がそれを許してくれなかった。
おんぶなんて、子どもの時以来だ。
こんなの恥ずかしくて、灰になっちゃいそう。
周りの人からヘンだと思われているに違いない。
私、重くないよね?
でも、安心する。
先輩に密着しているせいで、胸の鼓動が鳴りやまない。
絶対にドキドキが伝わっているよ……
商店街を抜けて、人通りのない住宅街を進んでいく。
ふたりきりの時間は沈黙に包まれていた。
「あ、あの……」と、耐え切れなかった私が話そうとすると、先輩と声が被ってしまった。
恥ずかしい。
「せ、先輩から……どうぞ」
「う、うん。もう忘れんなよ?」
私が話そうとした時、先輩が首に掛けた白い小さなカバンを見せる。
それ、私がロッカーに忘れていたやつ⁉
「ありがとうございます」
次に私が聞きたかったことを声に出す。
「あ、あの、どうして、私の場所が分かったんですか?」
気になる。先輩の理由……やっぱり、私の後を追いかけていたのかな?
「……王子様なんだから、姫の場所は分かって当然だろ?」
えっ、そ、そんなの反則――
キュンと心臓が飛び跳ねる。
先輩は淡々としているが、私は予想外の答えに動揺が隠せない。
「あっ、そ、そうだ! あの、忘れないうちに……」
本、貸しておかないとね。
話の腰を折るようだけど、仕方ない。
カバンの中に……あれ?
2冊入っている?
間違えて持ってきちゃったのかな……
「ち、ちょっと、下ろしてください!」
名残惜しかったが、先輩のおんぶから下りた。
表紙を見て確認する。1冊は私が持ってきた本だ。
もう1冊は……な、なにこれ?
こんな本、持っていたっけ?
私、誰かの間違えて持ってきちゃったのかな?
その時、私は衝撃的な発見する。
「……夜月輝夜?」
思わず二度見してしまう。
表紙に書かれた『作:夜月輝夜』の文字に驚きが隠せない。
でも、こんな本は知らない。
表紙のイラストも見たこともないし……ハテナで私の頭の中が埋まる。
「それ、新作だから」
へぇ~そうなんだ。
先輩、すっごい詳しいね…………新作……え?
「ええええええええっ⁉」
えっ、じゃあ、まさか、私、ずっと……ええっ⁉
「な、なななんで、そんな本、持ってるんですか!」
「だって、俺が作者だから」
あ~なるほど。そういうこと……ってなるかっ!!
「冗談はほどほどにしてくださいよ」
で、でも、それ以外、考えられないよね?
発売前の本を持っているなんて。
じゃあ、私は作者に向かって、あんなことやこんなことを……
今まで私が先輩に熱く語っていたことが、走馬灯のように脳内を駆け巡る。
「わわわわわっ……」
これ以上ない衝撃にパニックになる。
もうダメ……今すぐ死んじゃいたい。
「本を貸してくれたお礼ってことで」
う、嘘でしょ⁉
憧れの人がこんなに近くにいたなんて信じられないよぉ……
でも、い、いるんだよね?
私の目の前に居るのは、幻なんかじゃないよね?
現実だと言い聞かせるために自分で頬をつねった。
ううっ、めっちゃ痛い。
「このことは、誰にも言っちゃダメだから」
先輩が私の耳元で囁く。
そのとろけるような甘い声に呪われてしまった。
私は答えようと、言葉の引き出しを探した。
選択肢……ひとつしかないじゃん。
「は、はぃ……」
すると、先輩が私の頭を優しくナデナデする。
い、犬じゃないんだから……でも、ちょっぴり嬉しい。
「あっ……」
その時、ふと上を見上げると、夜空に魔法がかかったように、尾を引く閃光の星が見えた。
「あれ! 美琴くん! 見てください!」
気付いてすぐに空を指差した。
遅かったかな……
「流れ星……」
都会でも見えるものなんだという一分の驚き。
そして、そんな出来事を「先輩と一緒に見られた」というトキメキでいっぱいになる。
「願い、叶ったか?」
先輩が私の顔を見つめて優しく言った。
長い前髪から覗かせる、その見下ろすような美しい瞳に……私はさらに魅かれてしまう。
「はいっ! あっ、私、また言っちゃって……」
どうしよう。また『くん』付けで……
「今日だけは、お互い特別……な?」
先輩の言葉に、私の胸のドキドキは限界に達した。
この秘められた思いを伝えるのはまだ早いかな?
憧れの小説家として。
バイト先の先輩として。
ひとりの男の子として……
でも、この幸せに包まれたふたりだけの時間を大切にしたい。
この瞬間を満喫してからでも……遅くないよね。
〈了〉