世界でいちばん長い夜
 まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。
 これから一体どこへ向かうのだろう。
 私は視線のやり場に困り、俯いたままでいる。土屋さんは私の隣で外の景色に視線を向けている。
 でも……
 気が付けば、土屋さんの右手が私の左手を掴んでいた。左手から伝わる土屋さんの熱に、私は益々戸惑うばかりだ。

 タクシーがとある場所に停車するまでの約十分間、私たちは沈黙の中、タクシーの中でそれぞれの思いを抱えていた。

 タクシーが辿り着いたのは、閑静な住宅街の中にあるマンションの前だった。
 土屋さんは料金を支払うと、私を連れてタクシーから降りた。
 繋いだ手はそのままに、私は土屋さんの後を追ってエントランスへと続いた。
 エントランスの奥に続くエレベーターに私も一緒に乗り込むと、土屋さんは『閉』のボタンを押すや否や私にキスをした。

 まさかの展開に私は驚きを隠せない。目を見開いたまま、土屋さんを凝視している。色気もへったくれもない。
 エレベーターの中で、キスをされるなんて思ってもみなかった。と言うか、こうやってお持ち帰りされること自体想定外だ。
 私の中では他の女性たちと同じように振られて終わるものだと思っていたから。

 どのくらいの間キスをしていたか分からない。
 なかなかエレベーターの扉が開かないことに私は不安になり、土屋さんの腕を軽く叩いた。ようやく土屋さんの唇が私の唇から離れたので、私は口を開いた。

「エレベーター、動いてませんよね……?」

 私の言葉に、土屋さんが我に返った。

「あ……、ごめん。早く君に触れてたくて忘れてた」

 土屋さんはそう言うと、7のボタンを押して再び私の唇に触れた。
 土屋さんの言葉に私の思考は停止した。

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