世界でいちばん長い夜
『早く君に振れたくて……』

 これは何? 私の都合のいい夢? それとも期待していいの……?
 土屋さんの唇を受け止めながら、私は土屋さんのことを考えていた。

 土屋さんは同じ会社の五つ年上の先輩で、私の直属の上司だ。
 今年の春、本社からの異動でこの営業所に赴任してきた。

 仕事はできる、顔もイケメン、実直でまじめな性格とくれば、女性は放っておくわけがない。

 私は地方営業所の地元枠採用だったから、出張で本社に行くくらいしか本社への接点はない。
 本社へ行ったとしても、用事のある部署以外に顔を出すこともなかったので、土屋さんの存在すら知らなかった。
 きっと土屋さんも、私の存在なんてこっちに異動して来るまで知らなかっただろう。

 そのくらい接点なんてなかった。

 だから本社勤務時代の交友関係なんて知らないし、土屋さん女の有無すら知らない。
 もしかしたら、社外に土屋さん女がいて現在遠距離恋愛をしているのかもしれない。もしそうだとしてもおかしくはない。

 でも、土屋さんの誠実な性格を見ていたら、もし仮に遠距離恋愛をしているのならこうやって私をお持ち帰りするなんてしないだろう。

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