未完成の恋ですが。~俺様建築士と描く未来の設計図~
「……いう判断で、ガラスが入った木製の窓はすべて残す方向でよいだろうとなりました。ただ、行政側としては防犯面をしっかりしておかなくてはならないので、外側に雨戸かシャッターの新設は必要と考えています。できるだけ元の外観とバランスのとれたデザインにして、統一感があるものにしたいです。いかがでしょうか」
古民家での二度目の打ち合わせ。莉央はもう、10分近く一人で話し続けていた。
ひととおり外観に関する改修案の説明を終えて、黒川を含め地域メンバーたちの反応を待つ。
黒川の過去の建築を見て回った翌週、莉央は地域整備課内の会議で、古民家をもともとの状態をできるだけ保つことを主張した。さらに、機能性を重視するあまりに、”古びていること”そのものを欠点とみなす風潮に異を唱えた。
建物が積み重ねてきた時間や、そこで過ごしてきた人の記憶を切り捨ててしまいたくない。そんな想いに駆られて、莉央は言葉を尽した。
以前の莉央だったら、ただ黙って波風をたてず、無難な妥協案をまとめようとしただろう。
でも、今は違う。黒川が目指す建築を、なんとか形にしたかった。黒川と一緒に。
「次の打ち合わせ、期待してるから」
あの日そう言ってもらえた。誰かに期待された記憶なんて久しぶりだった。
莉央は、黒川の理想と課の方針の間にある齟齬をどうにか埋めようと努めた。何度も資料を見直し、ようやくこの提案が許可されたのは昨日の夜遅くだった。
黒川の様子を伺う。彼は腕を組み、無表情で聞いている。眉一つ動かさない。沈黙の時間が長く感じる。
「いいと思います。市の上層部とかけあってくれた宮本さんに感謝します」
やがて口をひらいた黒川の声に、胸がすっと軽くなる。地域のメンバーも資料を見ながら、納得したようにうなずいている。
(よかった……)
黒川に認めてもらったことが嬉しかった。莉央は続けた。
「ひとつ皆さんに窓のことでご相談があります。窓を古いまま残すので、建物の内部はやや採光が足りないのではないかと思われます。つきましては、採光用の窓をどこかに……」
自分の声に、いつの間にか自信が宿っていると莉央は感じていた。