彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました

1.残業依頼

 パーテーションで仕切られた自席。私はお弁当の蓋を開け、ピーマンとじゃこ炒めを口に入れた。
 なかなか上手にできたのではないか。次は卵焼き――そう思って箸を伸ばした時だった。

「野崎さん、今日もおいしそうですねえ。この辺りにはたくさんおいしいお店があるのに、毎日手作りって、すごい。私なら絶対、続きません」

 視線を上げると、前澤香奈(まえざわかな)が立っていた。通称・香奈ちゃん。華やかな顔立ちが武器の二十四歳、正社員。
 対する私は二十七歳・派遣社員で、この法律事務所では一年先輩だが、香奈ちゃんとの力関係は微妙。
 むっとして黙っていると、香奈ちゃんは両手をその小さな顔の前で合わせた。そして、いかにも申し訳なさそうな表情を作る。

「今夜、予定ってありますか? 雨宮(あまみや)先生の案件のクロージングなんですけど、遅くなりそうで。でも私、どうしても抜けられない家の用事が入ってしまって」

 私だって怜士(れいじ)と食事の約束がある。

「野崎さん?」

 私が黙っていると、香奈ちゃんがかわいく小首をかしげた。
 あまりのあざとさに、この仕草で頼まれたら断れる男性は少ないだろうなと、意地悪なことを考えてしまう。
 でもまあ、仕方ないか。
 正社員じゃない私は、こうして積み重ねていくしかないんだ。
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