彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
 怜士と香奈ちゃんの浮気現場に遭遇したショックで泣いていた私に、ハンカチを差し出してくれたこと。

 涙の理由を尋ねた先生に、「家を出なくちゃならないから」と嘘をついたこと。

 そうしたら、先生はシェアハウスの提案をしてくれて、相談にも乗ってくれ、こうして内見の立ち合いまで――。

 さっきまでのどきどきは消え、私の心は感謝で満たされた。
 コーヒーを置き、姿勢を正す。

「あの、雨宮先生」
「どうした急に改まって」
「色々とありがとうございました。すごく感謝しています」

 頭を下げる。

 そうして少しの間があって――頭の上にふわりとした感触が落ちた。続いて、ごく軽い重み――先生の――手?
 思わず頭を上げる。

 すると先生はすぐそばに立っていて、私を真っすぐに見つめていた。そして言った。

「さすが野崎さん、と思った。これからも大変なことはあるだろうけど、頑張れ。何かあったらまた相談に乗るから」

 先生は少し屈んで、内見の三人が帰ってからほどいていた私の髪をくしゃっとした。
 私は返事ができず、動くこともできず、ただ驚いていたのだが――。
 次の瞬間、先生は 

「――ごめん、思わず――!」

 と、その手をひっこめた。

 また、どきどきが戻ってきた。
 気まずさがじわっと押し寄せる。

 何か言わなきゃ……でも、言葉が出てこない。私がもたもたしている間に、先生が先に口を開いた。

「ほんとごめん、そろそろ帰るよ」
「あ――そうですよね、もう六時。すみません、こんな時間まで」

 私は、ジャケットを手にして部屋を出て行く雨宮先生を慌てて追いかけ、玄関で見送った。





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