彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
 思ったのも束の間。
 私の唇は、柊さんの唇に塞がれた。

「ん……」

 口づけの後、柊さんは私をぎゅうっと抱きしめた。髪が頬に触れる。

「……長かった」
「え?」
「こうするまで。我慢してた」
「ええ?」
「キスしたら、歯止めがきかなくなる。そうしたら、職場でも態度に出てしまいそうで――そういうの、周りにいい印象与えないだろ。でも、もう莉々は辞めるから」

 柊さんが真っすぐに私を見た。

「先に進める」

 胸がどくんとした。

 先に――それって――恥ずかしい。でも、私も進みたい。

「半端な気持ちじゃないから。シェアハウスのことがあるから、まだ結婚は先になると思うけど。これ」
 柊さんが内ポケットから出したそれは。
「え――柊さん、それ、指輪――」

 柊さんは、驚く私の左手を取った。

「はめていい? っていうのは、将来俺と結婚してくれるかっていう、その――プロポーズなんだけど――ごめん――もっとちゃんと言おうと思ってたのに、俺――なんかかっこ悪――ん」

 今度は私が、柊さんの唇を塞いだ。
 大好き。

 青い空を、飛行機がすうっと横切って行った。


(了)


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