彼がくれたのは、優しさと恋心――司書志望の地味系派遣女子、クールな弁護士にこっそり愛されてました
 お昼休み。

 一人になりたかったので、私はルーフガーデンに向かった。

 地上二十階にあるとは思えないほど広々としていて、芝生の緑が鮮やかだ。
 いくつもあるベンチのほとんどに人はおらず、私は、南向きのベンチに座った。
 飛行機が東京湾の上を飛んでいく。

 膝の上のハンカチの中には、アルミホイルに包まれたおにぎりが二つ。
 私は一つを取り出し、包みをほどく。
 ちゃんとしたお弁当を作る気になんてとてもなれなくて、適当に作ったものだ。白米にひじき煮を混ぜ込んで握ったそれを、私は齧った――おいしい――また涙がにじむ。

「うっ……」

 涙が頬をつたった。それでも私はおにぎりを食べるのをやめなかった。悲しさ、怒り、悔しさ、嫉妬――ぐちゃぐちゃに渦巻く感情を、おにぎりと一緒に飲み込むようにして、ひと口、またひと口と食べた。

 そうしてやっと一つ目を食べ終えた時、私の足元に人の影が差した。

 思わず振り返って見上げ、あ、と思う。まずい、涙――。

 だがもう遅かった。
 そこにいたのは雨宮先生で、先生は戸惑った表情をしている。

 どうしよう、何て言い訳しよう。

 そう思った時だ。
 雨宮先生は、スラックスのポケットに手を入れるとハンカチを取り出し、黙って私に差し出した。
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