あなたの子ですが、内緒で育てます
 証拠が出てきても、セレーネは少しも動じることはなかった。

「盗んだのは他の者です」
「お母様、ぼくが調べるよ。ぜったい、侍女たちは盗んだりしてない!」

 ルチアノには、なにか考えがあるのか、生意気にも侍女を庇った。

「いいえ。力を使う必要はありません。彼女たちは、私が辛い時、共にいてくれた侍女たちです。ルチアノの誕生から世話をし、遠い王都にもついてきてくれた」

 セレーネは真正面から、わたくしを睨んだ。 
 これほど、強いセレーネを見たことがない。

「ルチアノ。覚えておきなさい。人生で辛い時に助けてくれた人間が、一番信用できる人間です。信じるのに、力を使う必要はありません」

 侍女たちはセレーネの言葉に泣き出した。
 ルチアノも真剣な顔をしてうなずく。
 
「わかった。お母様。ちゃんと覚えておく」

 セレーネはネックレスを鞄から取り出すと、わたくしに渡そうとする。

「これはお返ししますわ」

 セレーネは、わたくしがやったことを見透かしているような目で見る、
 その目が、いつも気に入らなかった。
 なぜ、七年前、逃がしてしまったのか。
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