あなたの子ですが、内緒で育てます
「お母様。どうやって、デルフィーナは牢屋から出て、王宮から逃げられたのかな?」
「隠し通路を使ったのだと思うわ」

 私が逃げた時と同じ方法を使ったのだろう。
 王族しか知らない隠し通路がある。
 それも、王宮で生まれ育ち、国王陛下だったルドヴィク様にとって、忍び込むのは簡単なことだ。
 王としての教育を受けたルドヴィク様は、性格こそ受け身だけど、剣の腕も学問も人並み以上にできた。

「お母様の命を狙うだろうって、みんな、言ってた」
「そう。ロゼッテが気にするといけないから、ロゼッテの前で言わないようにね」
「わかってるよ。今、ロゼッテは侍女たちと、刺繍の練習をするって言ってた。部屋にあったお母様が刺繍したクッションを見て、ロゼッテもやりたいって言い出してさ」

 それで、ルチアノは暇をもて余しているというわけ……
 子供用の剣とはいえ、気になってしまい、まったく仕事が進まなかった。
 賢いけど、やんちゃなルチアノ。
 ザカリア様とジュストのおかげで、剣や乗馬と、毎日体力を消耗させているけど、子供の体力はすぐに回復するから恐ろしい。

「ルチアノ。剣は外で使いましょうか……」

 仕事をするのを諦めて、ルチアノと一緒に部屋の外に出る。
 ザカリア様とジュストが、慌ただしく回廊を歩いていくのが見えた。

「どうしたのかしら?」
「お母様、デルフィーナ様が戻ってきたみたいだよ」
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