あなたの子ですが、内緒で育てます
「兄の代で終わりにする。力に関係なく、王に相応しい者が即位するべきだ」

 兄上の元へ医者が到着した。
 大臣たちに逆らえなかった侍従が、安堵した様子で俺に一礼すると去っていった。

「ザカリア様は、我々を監視していらっしゃったのですな」

 セレーネやルチアノの身辺と、自分の周りを王宮の者に任せなかったことを言っているのだろう。
 もちろん、大臣たちにも監視の目はつけていた。
 だが、さすがタヌキ。
 おかしな動きもなく、なにも見つからなかった。 

「探したが、デルフィーナが使ったはずの毒薬の瓶が見つからなかった。ふたたび、使うため、誰かが毒薬の瓶を回収した可能性があると考えていた」

 それは一つの可能性であり、絶対にそうなると思っていたわけではない。
 だが、毒薬の瓶を手に入れることができるのは、宮廷内で権力を持ち、裏で動ける人間のみ。
 そうなると、限られてくる。

「我々を罰しますか」
「残念だが、証拠はない。兄上のワインに誰が毒を入れたのかも」
「気づいていらっしゃるのでしょう」

 俺はワインのボトルを眺めた。
 セレーネと兄上が結婚した年のワインだ。
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