あなたの子ですが、内緒で育てます
 少々わがままだが、優秀な夫を選べば、その夫がなんとかするだろう。
 
 ――セレーネがいた時のように。

「お父様、セレーネって、どなた?」

 ロゼッテが、俺の心を読み、なにげなく言った名前。
 セレーネの名をデルフィーナが聞いた瞬間、場の空気が凍った。
 デルフィーナの目付きが鋭くなった。

「ルドヴィク様。今、セレーネのことを考えていましたの? なぜ、セレーネを?」
「いや、どうしているかと思い出しただけだ」
「ロゼッテ。お父様は、わたくしではなく他の女のことを考えていたのよ。裏切りだわ! 浮気だわっ!」
「浮気? お父様、また浮気なの~? ひどーい」

 ため息をついた。
 セレーネに限らず、他の女性と会話しただけで浮気、目があっただけで浮気――デルフィーナの嫉妬は病的だった。
 ロゼッテと同じようにデルフィーナも、泣く真似をする。

「お母様ぁ~、泣かないで」
「ありがとう。ロゼッテ。あなたは優しい子ね」

 ロゼッテはこちらを見て笑う。
 幼いながら、ロゼッテは弱者と強者を見極めていた。
 俺の国王陛下の地位――それは、ロゼッテが成長するまでの、名ばかりの国王陛下だと、理解しているのだ。
 力を失った王はもはや王とは呼べない。
 完全にデルフィーナのほうが、優位な立場だった。
 
「悪かった」
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