あなたの子ですが、内緒で育てます
「いいえ、わかっておりますのよ。ルドヴィク様が本当に愛しているのは、セレーネだと!」
「そんなことはない。俺が愛しているのはデルフィーナだ」
「デルフィーナ?」
「……デルフィーナだけだ」

 そう告げると、デルフィーナは微笑んだ。
 このやり取りも何度目だろう。
 疲労感を覚え、二人から離れ、執務室から出る。

「王が部屋から追い出されるなど、聞いたことがない」

 苦笑するしかなかった。
 今や、王宮の権力はデルフィーナと、その一族が握っている。
 
「なぜ、こうなったのだ。ずっと同じ生活を続けているだけだというのに……」

 違うとすれば、王妃がセレーネでなくなっただけ。
 セレーネがいた頃は平和だった。
 それが今や―― 

「国王陛下! セレーネ様が建てた孤児院や救貧院が破壊され、燃やされております!」
「それは、どういうことだ?」
「デルフィーナ様が破壊するよう命じられたそうで……」
「あら。大臣じゃない。なにが悪いのかしら?」

 俺を追ってきたのか、背後にデルフィーナとロゼッテがいた。
 大臣は懸命に訴える。

「貧しいのは、王妃たちが贅沢をするからですぞ! 今日食べるパンにも困る民を救わず、新しいドレスを買うとはなにごとか!」
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