あなたの子ですが、内緒で育てます
「ザカリア様に罪なんてありません」

 ザカリア様が小さな子供のように見えた。
 不思議と、ルチアノくらいの歳頃のザカリア様が、そこにいる気がした。

「俺の力のせいで、母は部屋に閉じ込められ、食べ物も着る物も、最低限の物のみの日々を過ごした。俺がいなければ、母も一緒に閉じ込められることはなかった」
 
 ザカリア様は、自分とお母様のように、部屋に閉じ込められ、同じ扱いを受けている私を見捨てられなかったのだ。
 過去を知るジュストから、報告を受け、気にかけてくれていたのだろう。

「償う必要はありませんよ」

 私が同じ立場になっても、ルチアノのためなら、その境遇を受け入れただろう。
 自分のふがいなさを感じるだけで、ルチアノを責める思いは一切ない。
 ザカリア様を抱き締め、背中を撫でた。

「なにも悪くありません。ザカリア様はなにも悪くありません」

 きっと、私にそう言ってほしかったのだと思い、その言葉を繰り返した。
 お互いの体温が伝わった時、ザカリア様がお礼の言葉を口にした。

「ありがとう、セレーネ」

 体を離し、微笑んだザカリア様は、どこかルチアノに似ていた。
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