私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
ぷいっと顔を背けた私を見て、おかしそうに笑っていた。
取り繕っていても、私の気持ちは知久に全部見透かされているのかもしれない。

「照れ屋だからなー」

そんな冗談を言い合っていた私達だったけど、店のドアが開いた瞬間、お喋りをやめた。

「いらっしゃいませ」

入って来たお客様は笙司(そうじ)さんだった。
途中で一緒になったのか、穂風(ほのか)もいた。
そして、二人の後ろには痩せて暗い顔をした女性がいた。
長い髪を結び、背の高い女性。
どこか陰のある人で、美人なのに陰鬱な印象を与えるせいか、美人だとわかりにくい。
笙司さんが私のお店に来るのは初めてだった。
カフェをやることに反対だった笙司さんは一度も顔を出さず、カフェの話題も避けているくらいだったのに。
これは、どういう風の吹き回し?

「えっと、スパイスを買いに行ったら出会って、その……」

穂風は気まずそうにしていた。
一緒にいる女性が誰なのか穂風は気づいている。
笙司さんと一緒にいる女性の正体を。
毬衣(まりえ)さんが持ってきた写真に写っていた女性だった。
私と出会う前から、笙司さんがずっと付き合っている長い関係のある人だと私も知っている。

「小百里の店を一度見ておこうと思ってね」

< 105 / 172 >

この作品をシェア

pagetop