私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
贅沢な物を山ほど食べて口がこえているであろう知久。
笙司さんはうっと言葉を詰まらせた。
唯冬が口元に手をあてて笑っていた。
「いいよね?」
無邪気な笑みだったけど、それは完全に知久の挑発だった。
それに笙司さんも気づいている。
「……もちろん。知久君が来てくれるなんて光栄だよ。君は有名人だからね。だが、小百里と一緒に来るのは感心しない。彼女は君の婚約者じゃない。毬衣さんをつれてきたまえ」
その言葉でわかってしまった。
笙司さんは知久をライバル視していて、私と別れるつもりはないのだと。
だから、今日、来たのかもしれない。
最近、知久が店によく出入りするようになったから。
一緒にいた彼女にも笙司さんの気持ちがわかったのか、うつむき暗い顔をして先に店から黙って出ていった。
彼女を追わず、笙司さんは知久に言った。
「言っておくが、もうすぐ約束の三年になる。三年たてば渋木の家から結婚の許しをもらっている。知久君。遊びの相手ならたくさんいるはずだ。わざわざ人の婚約者を誘惑しないでくれよ」
「誘惑するのが仕事なので、ちょっとそれは約束できないかな」
知久は微笑み、笙司さんは顔をしかめた。
「そう、俺のことを好きになるのは自由だよ? ね、小百里さん?」
それは知久の宣戦布告。
彼にだけ許された甘い毒を含んだ目。
知久の手の内に囚われているような錯覚を覚えたのはきっと私だけじゃない。
笙司さんの勢いは消え、舌打ちをして店から出ていった。
店の前ではさっきの女性が待っていて一緒に歩いていくのが見えた。
笙司さんは私を好きだと言いながら、彼女のことも手放さない。
それは四年前から少しも変わらなかった。
笙司さんはうっと言葉を詰まらせた。
唯冬が口元に手をあてて笑っていた。
「いいよね?」
無邪気な笑みだったけど、それは完全に知久の挑発だった。
それに笙司さんも気づいている。
「……もちろん。知久君が来てくれるなんて光栄だよ。君は有名人だからね。だが、小百里と一緒に来るのは感心しない。彼女は君の婚約者じゃない。毬衣さんをつれてきたまえ」
その言葉でわかってしまった。
笙司さんは知久をライバル視していて、私と別れるつもりはないのだと。
だから、今日、来たのかもしれない。
最近、知久が店によく出入りするようになったから。
一緒にいた彼女にも笙司さんの気持ちがわかったのか、うつむき暗い顔をして先に店から黙って出ていった。
彼女を追わず、笙司さんは知久に言った。
「言っておくが、もうすぐ約束の三年になる。三年たてば渋木の家から結婚の許しをもらっている。知久君。遊びの相手ならたくさんいるはずだ。わざわざ人の婚約者を誘惑しないでくれよ」
「誘惑するのが仕事なので、ちょっとそれは約束できないかな」
知久は微笑み、笙司さんは顔をしかめた。
「そう、俺のことを好きになるのは自由だよ? ね、小百里さん?」
それは知久の宣戦布告。
彼にだけ許された甘い毒を含んだ目。
知久の手の内に囚われているような錯覚を覚えたのはきっと私だけじゃない。
笙司さんの勢いは消え、舌打ちをして店から出ていった。
店の前ではさっきの女性が待っていて一緒に歩いていくのが見えた。
笙司さんは私を好きだと言いながら、彼女のことも手放さない。
それは四年前から少しも変わらなかった。