私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】

25 破棄できない婚約

血の色のような赤ワインがグラスの中で揺れた。
笙司(そうじ)さんが経営するイタリアンレストランのディナータイムに招待されたのは私と知久、そして、毬衣(まりえ)さんだった。
店は駅近くにあり、その通りには百貨店や劇場が並び賑やかな人通りの多い場所だった。
閑静な場所にある私の店とはまったく違う雰囲気の場所で、店の内装も赤色で壁が塗られ、鮮やかな青の椅子とテーブルで客層は若い人が多いイメージだった。
飲み会をしているらしく、賑やかな話し声がして、店内は常にざわざわとしている。

「小百里さんの店とは全然違うなー」

「陰気臭い小百里の店より、こっちのほうが私は好きよ」

毬衣さんが言うと、知久が笑った。

「小百里さんの店に行ったことあるんだ?」

「えっ……。ま、まあ、そうね。ちょっと用事があったのよ」

その用事とは、毎回、笙司さんの浮気現場の写真を手に入れると持ってきて、嫌味を言って帰るというのが目的だった。
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