私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
その雑誌を持ってきたのは渋木の父と陣川の家族だった。
両家は息子自慢をさっきまで繰り広げていた。
その中で笙司さんは『君もがんばりなさい。今のままでは小百里を結婚させるのは収入的に不安だ』と父に笑いながら言われていたのが堪えたのかもしれない。
父にすれば冗談だったのかもしれないけれど、笙司さんのコンプレックスを刺激してしまったようでイライラとした口調で独り言のように呟いた。

「こんなものは人気商売だ。スキャンダルひとつで終わる」

笙司さんは鋭い目をして、知久達が表紙の雑誌をにらんだ。

「婚約者以外の女といたところを一度でも撮られたら、そこで終わりだ」

オレンジジュースを持つ手が震えた。
それでも、私はいつものように作り笑いを浮かべ、今の言葉を聞いていなかったふりをした。
破滅なんてさせない。
彼を馬鹿にしていい人間なんていない。
雑誌の写真から見えた知久は自信に満ち溢れた笑顔を見せていた。
知久は頭がいい。
だから、きっとうまくやる。
けれど、その知久が予想外の行動をとるのは私のことだけ。
卒業式の日に行った海を今も思い出せる。
きつく、コップを握りしめた。
知久のそばに私はいてはいけない。
笙司さんから受け取ったオレンジジュースを口にして、ワインの匂いが残る中、目を閉じた。
目蓋の裏に海が見えるような気がした。
あの日の海が。
だから、私は決めた。
知久の障害とならないよう私から、彼と距離を置くことを―――

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