私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「あれ? おかしいなぁー」

最近の知久は徐々に私との距離を縮めてきているような気がする。
手にしたメニューで知久との間に壁を作った。
そして、にらみつけた。
警戒心薄くなればなるほど危険だって、わからないの?

「知久。近寄りすぎよ」

周りを見渡すとお客様は唯冬達くらいだけど、キッチンには穂風がいた。
二人は私と知久のことなんてどうでもいいのか、音大受験に向けた対策を真剣に話し合っている。
その様子はもう恋人同士というより、もっと深い恋人以上のパートナーに見える。

「千愛ちゃんはさ。前より明るく笑うようになったよね。それと、唯冬の眉間の皺が少し減った気がする」

「唯冬の眉間に皺が寄るようなことをするのは知久と逢生(あお)君でしょ」

「それについては否定できない」

「……否定しなさいよ」

少しも悪いと思っていないんだから。
カウンター席から二人の姿を眺め、コーヒーのおかわりを知久のカップに注いだ。

「でも、唯冬は結朱(ゆじゅ)さんをどうするつもりでいるのかしら」

唯冬には婚約者がいる。
それも相手は陣川家。
父が婚約解消を簡単に許すとは思えなかった。

「結朱はプライドが高い。千愛ちゃんが自分より唯冬にふさわしいと思えば、潔く身を引くよ」

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