私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
同じ家という責任を背負っているのに知久はに軽やかで、手の中をすり抜けていく蝶のよう。
「わかったわ。王子様」
「それ皮肉? それとも嫉妬?」
女性からの熱い視線を受けながら、色っぽく目を細めて誘惑している王子様。
華やかな雰囲気と顔立ち。
この顔に騙されて何人の女性が泣いたことか。
高校時代、彼と付き合いたいという女の子が後をたたず、遊びでもいいなんて告白を聞いたのは片手の指じゃ足りない。
「後者なら嬉しいな」
「間違いなく前者よ」
一刀両断すると、さすがの知久も苦笑した。
世の中の女性すべてを魅了しないと、気が済まないのかしら?
それに比べて弟の唯冬は純粋そのもの。
一途な弟は片想いの相手を追って、ピアニストになることを選んだ。
弟はピアノを続けていれば、憧れの彼女と弾ける日がやってくると信じている。
爪の垢を煎じて飲ませたい。
知久の笑顔を見て、さっきから十回は考えた。
「小百里に愛を囁くように弾くよ」
「そう。普通に弾いて」
「俺に普通を求めるのは無理だってこと、知っているよね?」
無理なことはよく知っている。
彼は幼いころから、天才バイオリニストと呼ばれ、その音は本人の性質と同じように人の心を掴み、魅了し、虜にしてしまう。
「わかったわ。王子様」
「それ皮肉? それとも嫉妬?」
女性からの熱い視線を受けながら、色っぽく目を細めて誘惑している王子様。
華やかな雰囲気と顔立ち。
この顔に騙されて何人の女性が泣いたことか。
高校時代、彼と付き合いたいという女の子が後をたたず、遊びでもいいなんて告白を聞いたのは片手の指じゃ足りない。
「後者なら嬉しいな」
「間違いなく前者よ」
一刀両断すると、さすがの知久も苦笑した。
世の中の女性すべてを魅了しないと、気が済まないのかしら?
それに比べて弟の唯冬は純粋そのもの。
一途な弟は片想いの相手を追って、ピアニストになることを選んだ。
弟はピアノを続けていれば、憧れの彼女と弾ける日がやってくると信じている。
爪の垢を煎じて飲ませたい。
知久の笑顔を見て、さっきから十回は考えた。
「小百里に愛を囁くように弾くよ」
「そう。普通に弾いて」
「俺に普通を求めるのは無理だってこと、知っているよね?」
無理なことはよく知っている。
彼は幼いころから、天才バイオリニストと呼ばれ、その音は本人の性質と同じように人の心を掴み、魅了し、虜にしてしまう。