私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「小百里!?」
声が震えた。
引き取られてから、初めて私は渋木の家に反抗した。
決められたことを覆せたことなんて一度もない。
でも。
「結婚はまだしたくないんです」
「なにを言ってるんだ。お前がなに不自由なく暮らせる相手だぞ。心配いらない」
私の言葉を父は一蹴した。
「座りなさい。小百里」
私の小さな抵抗は父にとって、どうでもいいことのようだった。
「とりあえず、席に座ってお話ししましょう」
清加さんから落ち着いた声で言われ、私は席に座った。
まるで私は、わがままを言って二人を困らせている子供のようだった。
ここで泣くようなら、本当に駄々っ子にされてしまいそうで、ぐっと涙をこらえた。
結局、私の意見なんて誰も聞いてくれない。
悲しみの涙が喜びの涙に変わるなんて、そんな都合のいいことは起きないわ―――そう思って顔をあげたその時。
「いやぁ、遅れたようで申し訳ない」
明るい声が響いた。
その声に聞き覚えがある。
「父さんは話が長いんだよ」
「お前がきちんとスーツを着ないからだ! なにが少し肌を見せるくらいがちょうどいいだ!見合いに色気なんぞ出すな!」
「いやいや、時間ぴったりですよ。陣川社長。知久君は職業柄、身だしなみに気を遣うことが多いのでしょう」