私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
32 堕ちるなら
以前、泊まったスイートルームとは違うスイートルームで、今回は部屋数が少ない代わりに眺めもよく浴室からも美しい眺めが楽しめる。
そんな部屋には知久が頼んだのか、よく冷えたスパークリングワインとホールサイズのケーキとフルーツ、サンドイッチが並んでいた。
お昼が多かったせいか、少ししか食べられなかったけど、それはたいした問題じゃなかった。
浴槽には薔薇の花びらが浮いていて甘い香りがする。
これはハネムーン仕様じゃないのかしらと思わずにいられないくらい豪華だった。
「あのね、知久。それで、種明かしはどうなったの?」
「んー、どうなんだろうねー」
「言いなさいよ」
「小百里からキスしてくれたら言おうかな」
薔薇の香りがする温いお湯を肩にかけ、舌を肌の上で遊ばせる。
お湯が落ちていくのを追って、舌が這う。
「……っ!」
知久は私の反応を楽しんで、笑っていた。
「い、一緒にお風呂に入ったら教えるって約束だったでしょ!?」
背後から抱きかかえ、私の背中に唇を押しあて、肌を味わうように舐めた。
「と、もひさ……!」
怒るわよ、と振り返った先に髪を濡らした知久が前髪をかきあげて、色っぽく目を細めて私を見つめている姿があった―――ぞくりとして肌が粟立った。
ゾっとするほど、知久は綺麗だった。
髪の先から落ちた水滴が、知久の滑らかな皮膚の上に滑っていく。
見なければよかったと後悔した。
色気がありすぎて、圧倒的に不利。
触れられている手から伝わる刺激が、私の理性を蝕んだ。
「ほら、小百里。ワイン飲んで。これ、美味しいよ?」
「ん……」
振り返ったタイミングで、自分の口からワインを飲ませる。
私の言葉を消すようにして。