私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
「帰って来てから、私にキスしたのを忘れたの?」

「お預けされたやつは数えない」

根に持っているらしく、知久は意地悪な顔をした。
思い出したのか、チリッとした痛みと共に私の体に赤い痕を残していく。
その痕を宝物のように舌がなぞる。

「……ん」

体にいくつ刻み付けたのか、続く舌の感触に身を悶えさせた。
下腹部に指が触れ、びくりと震えた。
知久の指は繊細で、優しい。
その優しい動きが私の頭をおかしくする。
同じ場所を何度も繰り返し、責め続けた。

「あ……や、めっ……て……おかしくなるから……」

「やめて欲しいって顔はしてないけど?」

ぐらりと目の前が揺れ、倒れかけた体を大きな手が受け止めた。
手のひらが熱い。
知久の顔を見上げると、くすりと笑った。

「俺もきついんだよ?」

ちゅ、と音をたてて体にキスを落とす。

「でも、聖人君子になれるんじゃないかってくらい待たされたから、これくらいはなんでもないな」

感じていたのを隠していても、私の白い肌は朱に染まり、息を乱していたのを知久は見逃さなかった。

「小百里の顔が見たい。こっちを向いて」

「知久っ……」

背後から抱かれているのと、正面からでは恥ずかしさが違う。
くすりと意地悪く笑う知久は悪魔のよう――いいえ、悪魔だ。
だから、私はあなたのもの。
私は彼の手の内へ。
本当に悪い人。
私はわかっていても止まれない。
だって、彼の望みは私の望み。
このまま、一緒に甘く堕ちてしまいたい。
どこまでも。
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