私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
34 五年後の今【知久】
そして―――今、俺は再び兄の前に立っている。
大学を卒業し、陣川製薬専務となった兄は重役が座る革の椅子に座っていた。
あの時と同じ、兄の部屋にはモーツァルトの魔笛が流れていた。
「兄さん、約束を果たしてもらうよ」
「内容は?」
「高窪物産の社長を解任させてほしい」
「このタイミングで言うか」
「今だからだよ」
両親は俺を結婚させようとしている。
妹の結朱が唯冬から婚約を解消されて焦り、兄妹二人が破談したとなれば、外聞が悪いと考えたようだ。
別に俺は解消されても構わないけど、両親は自分の子供に問題があるのではと言われたくないらしい。
結朱にも早く新しい結婚相手を探さなければと話しているのを聞いた。
「高窪家は俺と結婚できるって大喜びらしいね」
今週末の日曜日には両親同士の顔合わせがあり、結婚の話をする。
そこまで話は進んでいた。
それを兄も知っている。
兄は苦笑した。
「お前は本当に酷い奴だな。相手を喜ばせるだけ喜ばせて、そこから地獄に落とすのか。このタイミングを待っていたんだろう?」
「酷い奴だとか、兄さんだけには言われたくないね」
冷淡冷酷、情のない男だと言われているくせに俺を酷い男呼ばわりはない。
だいたい兄はいつ結婚するのか。
蛇のように狡猾な兄は両親に自分の婚約者すら決めさせなかった。
するりとかわして、独身を貫き中だ。
「彼女の代わりに高窪へ復讐をするのか」
俺は笑顔だけ見せて余計なことを一切口にしなかった。
それを肯定と受け取った兄はため息をついた。
「高窪が社長でなくなれば、父さんはお前を婿にやろうとは絶対に思わないからな」
「なんの利益もないからね」
父は人のいい顔をしているが、陣川製薬の社長だ。
俺をなんの得にもならない家にくれてやることは絶対にない。
「それで、お前の目論み通り両親が次の婚約者を探すってわけか」
「そうだよ」
「今、お前の婚約者に選ばれるとしたら一人だけだな」
唯冬が婚約を解消したことで陣川の家は怒っている。
大学を卒業し、陣川製薬専務となった兄は重役が座る革の椅子に座っていた。
あの時と同じ、兄の部屋にはモーツァルトの魔笛が流れていた。
「兄さん、約束を果たしてもらうよ」
「内容は?」
「高窪物産の社長を解任させてほしい」
「このタイミングで言うか」
「今だからだよ」
両親は俺を結婚させようとしている。
妹の結朱が唯冬から婚約を解消されて焦り、兄妹二人が破談したとなれば、外聞が悪いと考えたようだ。
別に俺は解消されても構わないけど、両親は自分の子供に問題があるのではと言われたくないらしい。
結朱にも早く新しい結婚相手を探さなければと話しているのを聞いた。
「高窪家は俺と結婚できるって大喜びらしいね」
今週末の日曜日には両親同士の顔合わせがあり、結婚の話をする。
そこまで話は進んでいた。
それを兄も知っている。
兄は苦笑した。
「お前は本当に酷い奴だな。相手を喜ばせるだけ喜ばせて、そこから地獄に落とすのか。このタイミングを待っていたんだろう?」
「酷い奴だとか、兄さんだけには言われたくないね」
冷淡冷酷、情のない男だと言われているくせに俺を酷い男呼ばわりはない。
だいたい兄はいつ結婚するのか。
蛇のように狡猾な兄は両親に自分の婚約者すら決めさせなかった。
するりとかわして、独身を貫き中だ。
「彼女の代わりに高窪へ復讐をするのか」
俺は笑顔だけ見せて余計なことを一切口にしなかった。
それを肯定と受け取った兄はため息をついた。
「高窪が社長でなくなれば、父さんはお前を婿にやろうとは絶対に思わないからな」
「なんの利益もないからね」
父は人のいい顔をしているが、陣川製薬の社長だ。
俺をなんの得にもならない家にくれてやることは絶対にない。
「それで、お前の目論み通り両親が次の婚約者を探すってわけか」
「そうだよ」
「今、お前の婚約者に選ばれるとしたら一人だけだな」
唯冬が婚約を解消したことで陣川の家は怒っている。