私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
4 婚約者からのプロポーズ
「よかったよ。さすが音大を卒業しているだけあって見劣りしない」
私のそばへやってくるなり、笙司さんが腕を差し出した。
その腕を知久は見つめた。
「席に戻ろうか」
笙司さんの腕に触れ、私が椅子から立ち上がったその時、甲高い声が響いた。
「知久さん! 今日一番の演奏だったわ!」
きつい香水の匂いとハイヒールの強い音。
胸元が大きく開いた黒のロングドレスを着た毬衣さんが拍手をしながら、近づいてきた。
私をじろりとにらむのも忘れない。
毬衣さんは自分から知久の腕に自分の腕を絡める。
そうすることで、自分の物だと主張して、知久を誘惑するように胸元を強調する。
それを見た笙司さんはいい顔をしなかった。
彼は女性から、迫られることを嫌う。
主張されることも。
けれど、知久は笑ってかわす。
「次の曲を弾くよ」
知久は微笑んで、慣れた仕草で腕をほどく。
それも自然に。
自分から逃れた腕を毬衣さんは悔しげに眺めていた。
「小百里#さん__・__#、ありがとう。楽しかったよ」
「いいえ、こちらこそ」
「知久さんと弾けて光栄だったでしょ?小百里なんてちょっとピアノがうまいだけのただの一般人なんだから」
噛みついてきた毬衣さんを知久が冷たい目で一瞥した。
笑っているのに目は笑っていない。
それに気づき、毬衣さんは黙った。
「小百里さんはプロと言っても差し支えない。ただコンクールに出場できなかっただけで」
私のそばへやってくるなり、笙司さんが腕を差し出した。
その腕を知久は見つめた。
「席に戻ろうか」
笙司さんの腕に触れ、私が椅子から立ち上がったその時、甲高い声が響いた。
「知久さん! 今日一番の演奏だったわ!」
きつい香水の匂いとハイヒールの強い音。
胸元が大きく開いた黒のロングドレスを着た毬衣さんが拍手をしながら、近づいてきた。
私をじろりとにらむのも忘れない。
毬衣さんは自分から知久の腕に自分の腕を絡める。
そうすることで、自分の物だと主張して、知久を誘惑するように胸元を強調する。
それを見た笙司さんはいい顔をしなかった。
彼は女性から、迫られることを嫌う。
主張されることも。
けれど、知久は笑ってかわす。
「次の曲を弾くよ」
知久は微笑んで、慣れた仕草で腕をほどく。
それも自然に。
自分から逃れた腕を毬衣さんは悔しげに眺めていた。
「小百里#さん__・__#、ありがとう。楽しかったよ」
「いいえ、こちらこそ」
「知久さんと弾けて光栄だったでしょ?小百里なんてちょっとピアノがうまいだけのただの一般人なんだから」
噛みついてきた毬衣さんを知久が冷たい目で一瞥した。
笑っているのに目は笑っていない。
それに気づき、毬衣さんは黙った。
「小百里さんはプロと言っても差し支えない。ただコンクールに出場できなかっただけで」