私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
 だから、俺がちょっとくらい世話が焼ける人間だとしても許して欲しい。
『許せるかっー!』
 あの二人じゃなくて、なぜか奏花の怒る顔が目に浮かんだ。
 じりじりと照り付ける太陽に気づき、我に返った。
 店の前に立つ怪しい人になっている。

「俺は頑張る!」

 正直、人と話すのは苦手だ。
 でも、今日から俺は生まれ変わる。
 奏花のために!
 パティスリーハラベのドアを開けると、店内はすでにクーラーが入り、肌に涼しい風を感じた。

「ケーキの予約をお願いしたいのですが……」

 ショーケースにはメロンのショートケーキ、フルーツタルト、チョコレートムースとピスタチオ、ラズベリームース、チーズケーキ……魔法の呪文みたいに並んでいた。
 眺めているだけで目眩がする。
 だからこそ、俺はケーキは予約しておくという方法を思い付いた。
 ここまでの作戦は完璧だ。

「誕生日ケーキのサンプルをご覧になりますか?」
「サンプル……? 誕生日ケーキはおおきいやつで……」
「はい。大きいサイズのホールケーキですね」

 ホール?
 ホールってなんだろう。
 ケーキにサイズがあることもすっかり忘れていた。
 混乱しながら、無難な答えにたどり着く。

「一番大きいやつで豪華にしてください」

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