私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
 店員さんにくすりと笑われたような気がした。
 これは失敗だったかもしれない。
 どうしようと思っていると、奥からハラベと名札のついた女性がやってきて微笑んだ。

「大事な方へのケーキですか?」
「すごく大事な方です」

それだけは自信を持って言える。迷うことなく告げるとハラベさんはにこにこと微笑んだ。

「素敵ですね。それでは、その方がお好きだと思うものを教えていただけますか」

 店員さんがいいんですかという顔でハラベさんを見た。
 いいのよという顔をし、店員さんを横へやった。
 俺が初めてケーキを購入することに気付いたに違いない。
 
「好きな食べ物やお気に入りのものはありますか」
「プリンが好きだと思う……。あと、仕事」

 ブフッと店員さんが吹き出していた。ハラベさんはプリンとメモっていた。

「仕事が好きなのはいいことだと思いますよ」
「俺の誕生日には毎年、ケーキを焼いてくれるんです。生クリームいっぱいのやつ。だから、俺も奏花が喜ぶようなケーキをあげたい」
「きっと喜びますよ。花束のようなケーキにしましょうか」

 ハラベさんは親切でその場で絵まで書いて、俺にこんなケーキにしますと丁寧に教えてくれた。
 人気店なのもわかる気がした。
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