私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】
 奏花は疑わしい目で俺を見ていたけど、仕事を頑張っているのは本当だ。
 
「気に入らない相手だからって電源を切ったんじゃないでしょうね」

 長年の付き合いだけあって鋭い。
 けど、こっちも長年の付き合いだから、わかっていることもある。

「奏花。チェロを弾くよ」
「誤魔化そうとしているでしょ? いつも逢生は都合が悪くなるとチェロを弾いて私のご機嫌をとるんだから!」
「そうだよ。でも、今は誤魔化されて」

 奏花の口から他の男の名前なんか聞きたくない。
 それくらい俺は奏花が一番好きだってこと、奏花は全然わかってない。
 俺の演奏が聴きたいならと、奏花にチェロを見せるとおとなしくなった。
 俺は知っている。
 奏花が俺が弾くチェロが好きだということを。
 カーテンを開け、部屋の電気を消す。
 夜空には月が輝き、その薄闇の中、チェロを奏でる。
 奏花が好きなドビュッシーの月光を。
 深く、せつなく、そして甘く。
 俺の気持ちが奏花に伝わるようにいつも弾いている。
 ちらりと奏花を見ると、大好きなプリンを途中にしたまま、俺を見つめていた。
 言葉がなくても、その目は奏花の気持ちを語っている。
 曲が終わり、奏花はぼうっとしていた。
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